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京都市北区西賀茂榿ノ木町31−2
院長 諸岡 憲(もろおか けん)
  1. 薬、クリスマスそしてドイツ語
 

薬、クリスマスそしてドイツ語

 


私とチェコの友人Dr. Vladimir Dolezal: フライブルク大学薬理学研究所にて。 1994年3月
少し遅くなりましたが、毎年12月になると、ドイツのder Advent(待降節。クリスマスWeihnachten前の4週間)を思い出します。それは、日本の商業主義に踊らされた中身のない「クリスマスもどき」とは比べものになりません。

夏の間は、毎日そこら中で見かけた大道芸人(der Strassenkünstler)が姿を消し、代わりに聖歌人(隊)(der Kirchenchor)による優しい聖歌(das Kirchenlied)の響きが町中にあふれ、暖かい点滅しないほのかな明かり(蛍光灯は一部のオフィスビル以外、ドイツを含めたヨーロッパの家屋や街灯には使われていません。ましてやネオンサインなどは、Hamburgの一部地域以外は、その使用を法律で禁止されているのです!)と共に、キリストの誕生を静謐に祝う荘厳な雰囲気に街が包まれます。

そして、何と言っても、der Weihnachtsmarkt(クリスマス市場)の楽しさ!
どこの街でも、街の中心部に大きな広場(der Platz)があり、そこでAdventの期間、市(der Markt)が立ち、種々様々な屋台が並ぶのです。
人々は、そこに集い、クリスマスに必要な衣服、食糧、ローソクや飾り付け等を買い求めることが出来ます。

 


 

フライブルク(Freiburg im Breisgau)

さらに、日本の正月の市と同じく、多種多様な食べ物屋台も軒を並べます。

うすぼんやりした黄色の太陽が低く浮かぶ冬の休日に、遠くから響くMünster(大聖堂)の優しくも荘厳な鐘の音に包まれながら、Bratwurst(焼きソーセージ。特に南ドイツ特有のWeisswurstが美味)をほおばり、Glühwein(熱燗ワイン。紅茶とレモンに赤ワインを入れ、熱くしたもの)を傾ける。その至福の時を、私は今でも忘れることが出来ません。

広場を囲むのは、日頃見慣れた様々な商店。看板には、Cafe(喫茶店)、Bäckerei(パン屋)、Konditorei(洋菓子店)、Bücher(本屋)、Coiffeur(理髪店)、Bank(銀行)、Apotheke(薬局)、そして、Lebensmittel...
薬のことを英語では、medicineと言います。
元々は、古フランス語のmedicine、さらに遡ればラテン語のmedicinaが語源とされています。
いずれも、医学、医療(広義では治療)と同義語であり、動詞になれば、「薬で治療する」という意味になります。
この様に、薬は如何に医学の治療の根幹を成しているかと言うことが、この言葉に凝縮されていると言えましょう。
日本でも、江戸時代以前の医師は薬師(くすし)と称される事もありました。
これらに対して、ドイツ語では、薬のことをdas Mittelと言います。
ところが、ドイツ語のMittelには、医学・医療の意味はなく、手段とか資金とかと同義語となっています。
つまり、英語(フランス語)では、means(手段)に当たるのです。



フライブルク(Freiburg im Breisgau)の 大聖堂(Münster)
一方、ドイツ語で医学はdie Medizineと言います。即ち、英語・フランス語と全く同じ語源なのです。
元々、医学は、ギリシャのヒッポクラテスにより始められた学問であり、ローマにおいて発展し、ローマ帝国の範図拡大と共に、ローマ人によって、全ヨーロッパに広められました。
ドイツ(現在のオーストリアやスイスなども含む)は、最後まで、ローマ人の侵攻を許さず、屈強なゲルマン人として、長くローマ人の脅威となっていました。

この様な歴史を踏まえれば、ドイツ語で医学(ローマ人がもたらしたもの)と薬が区別されているのは当然かと思います。
つまり、「医学」という概念が存在しなかった時代から、病を軽減・治癒する「手段」としてdas Mittelを用いてきたと言うことを物語っています。
一方で、おもしろいことに、食料品・食糧のことを、上述の様に、ドイツ語では、das Lebensmittelと言います。
この単語の後半は勿論、Mittelですが、前半のLebenとは、生命・人生のことであり、英語では言うまでもなく、Lifeであります。
つまり、ドイツ語のdas Lebensmittelを言葉通りに直訳すると、「生命の薬」となるのです。
食糧=生命の薬。
何と素晴らしい言葉だと思いませんか!古来中国では、「医食同源」と言いますが、その精神と同じ意味を持つ言葉が、ドイツ語では、「食料品・食糧」として使われているのです。私はドイツ語を勉強し始めてから、この言葉に遭遇して大いに感動したことを今でも覚えています。
食糧無くして生命を維持することは生物にとって不可欠です。ゲルマン民族は、いにしえの時から、言葉一つにも論理的整合性を持たせてきたことが窺い知れます。日頃のバランスの取れた食生活こそが、健康を維持する源であることを、この言葉は改めて教えてくれています。
ドイツをはじめヨーロッパでは、新年2日から通常に仕事が始まり、7日を過ぎると、街の中心に立っていたクリスマスツリーも撤去されます。いよいよ2007年が始まりました。今年一年、皆様にとってどうかよい年でありますように。
Frohe Neues Yahr!