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京都市北区西賀茂榿ノ木町31−2
院長 諸岡 憲(もろおか けん)
  1. 日本脳炎と日本脳炎ワクチンに関する背景の詳細
 

日本脳炎と日本脳炎ワクチンに関する背景の詳細

以下の文章は、2011年春まで、当ホームページに掲げていた文章を、敢えて原文に近い形で載せますので、一部現在の状況とは異なりますことをご了承下さい。

既に述べました様に、何の事前予告も無しに、厚生労働省は、2005年5月30日以降、日本脳炎(旧型)ワクチン接種を、一時見合わせる様、勧告を行いました(積極的勧奨の一時中止)。

 

その理由は、以下の2点に集約されます。

1. 日本脳炎患者(特に小児の)数が事実上ゼロになったこと。

2. 2004年に、日本脳炎ワクチン接種を受けた山梨県在住の14歳の女児3名が、その後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発病したこと。

厚生労働省が最も懸念するのは、特に2.の事であり、ワクチンの副反応としてADEMが発症したのではないかと、危惧していたのです。

そして、1.の様に、現在患者が存在しないならば、敢えてワクチンはしない方が無難だと言うのが、表向きの理由でした。

 

しかし、果たして本当にそれでよかったのでしょうか。

旧型ワクチンは、まず、マウスの脳に日本脳炎ウィルスを接種し、日本脳炎を発病したマウスの脳を取り出します。

次いで、その中からウイルス成分を抽出・精製し、さらに、ウィルス成分をホルマリンなどで不活化したものでつくられています。

これらの一連の精製段階で、マウスの脳成分自体が混入してADEM発症の原因となったのではないかと、同省グループは危惧していたのです。

そのため、現在(注: 2005年以降2009年までを差します)、マウス脳に依存しない組織培養細胞由来の不活化ワクチンを代わりに開発中であり、これが完成すれば、ワクチン勧奨を再開するとしています。しかし、予定されていた2006年度中の再開も見送られ、新ワクチンはまだ数年先のことになる見通しです。

ADEMは、日本脳炎以外のウィルスや何らかの細菌に感染した後に発症すると考えられていますが、たとえADEMを発症したとしても、完全治癒する場合が多く、後遺症(多くは歩行障害等の運動機能障害で、しかも、一過性の場合が多い)の残存する確率は10%弱程度とされています。

 

また、ADEMの自然発症率と日本脳炎予防接種後のADEM発症率との間に、統計的に全く差はなく、既存の、すなわち、マウス脳由来ワクチンでADEMが発症する(した)とは極めて考えにくいのです。

言い換えれば、日本脳炎新ワクチンが出来たとしても、その接種によってADEMが発症する危険性は、既存のものと同じだと言うことなのです。

さらには、たとえマウスの脳を用いたとしても、現代の優れた精製技術では、ワクチンにマウス脳成分が残存することはあり得ず、実際、旧型ワクチンからマウス脳成分は微量だに、検出されていません(ADEMを発病した際に使用されたワクチンからも)。

 

一方で、日本脳炎は、東南アジアやアフリカにおいては依然猛威をふるっており、日本ではもはや日本脳炎が流行しないとするのは、根拠に乏しい非科学的楽観論と言わざるを得ません。

 

さらに、日本脳炎は一旦発病すれば治療法がなく、しかも、致死率(20%程度)や救命できたとしても脳に重篤な後遺症を残す確率(40%程度)が、極めて高い恐ろしい病気なのです。

従って、何よりもワクチンで予防するべきものなのです。当院では、以上の様な科学的考えの基に、従来通り、積極的に旧型ワクチンでの日本脳炎ワクチン接種を勧め、執り行っていきます(上記のように、適用年齢内での接種は300円の窓口負担で受けられます: 2010年までの事情です)。

上記を当ホームページに上梓してから、早5年の歳月が経過し、この間、めまぐるしく情勢が変化しました。まず、組織培養細胞由来の不活化ワクチン(以下、新型ワクチンと呼びます)は、2006年にプロトタイプが完成し、数度の臨床試験を経た後、2009年6月から漸く供給が開始されました。この翌年2010年3月までは、所謂旧型ワクチンと新型ワクチンとが併用されていましたが、2010年3月末をもって、旧型ワクチンは製造供給が完全に中止となり、それ以降は、新型ワクチンのみとなっています。

 

そして、2010年4月1日、厚生労働省は、2005年の時と同様、何の前触れもなしに、突然、「日本脳炎ワクチンに対しての積極的勧奨の再開」を発表したのです。

 

さらに、2011年5月20日には、「1995年(平成7年)6月1日から2007年(平成19年)4月1日生まれまでの者で、日本脳炎予防接種を接種しないまま、本来の定期接種適応年齢(13歳未満)を超えてしまっていても、その者が20歳未満までに合計4回の接種を無料で受けられるよう配慮する」という趣旨の通達を発表しました。

 

つまり、現在、日本脳炎予防接種は定期接種に復活したばかりか、とうの昔に無料で受けれる年齢を超過した者(厚労省の決定を素直に信じて予防接種を受けていなかった者)でも無料で接種できるようになったのです。

実に喜ばしい大転換ですが、裏を返せば、何故、この様な節操のない対応をするのでしょうか?

この様な決定に至った理由は、私が収集した情報によりますと、以下の様になります。

まず、2005年5月の「間違った決定」のため、旧型ワクチンの接種を受ける子供達は当然激減しました。このこと自体は、この決定によって招来されるであろう厚労省の企図(何を企図していたかは敢えて記述しません)した結果であり、彼らは大変満足しました。

 

しかしながら、一方で、この「間違った決定」によって、厚労省のもう一つ期待した良いこと(急性散在性脳脊髄炎の発生抑止)は一切起こらず、かわりに彼らの企図していなかった(ある程度は予測していたかもしれません)最悪の事態が2つ発生し、彼らを大いに慌てふためかせることになりました。

 

第1の事象:2005年5月以降、急性散在性脳脊髄炎は逆に増加の一途をたどっています。

この結果は、急性散在性脳脊髄炎の病因は、旧型日本脳炎ワクチン接種ではなかった、即ち、急性散在性脳脊髄炎の発症原因は別にあり、旧型ワクチン接種と同症の発症は無関係であることを強く示唆するものです。

 

第2の事象2006年に熊本県で3歳男児の日本脳炎患者が発生しました。

以後、2007年に1人、2008年にも1人、更には、2009年には2人も日本脳炎が発生したのです(2010年にも1人発生)。これらの患児は、いずれも、1歳から6歳までの岡山県以西の日本で普通に生活していた子供達です(彼らは当然日本脳炎の流行している外国旅行などは一切していません)。

この患児たちは、幸い救命できましたが、残念ながら、言葉の障害や運動機能障害がやはり後遺症として残ってしまいました。

 

また、皮肉なことに(と言うか論理的帰結通り)、上項の急性散在性脳脊髄炎に罹患した山梨県女児3名は完全回復しています(そもそも山梨県だけにしか発症が起こらず、しかもたったの3名の発症事例がどうして中止に至る科学的判断の根拠となり得るのでしょうか)。

一方、厚生労働省が2006年〜2007年にかけて調査した結果によりますと、日本全国に飼育されている豚の殆どが日本脳炎ウィルスを有しており、特に三重県以西の養豚場の豚の同ウィルス陽性率は80-100%に達しているとのことです。

この結果を受けた厚生労働省は、2008年の春、「蚊に刺されないようにしましょう」と言う、有り難い注意を呼びかけました。

 

以上のような経過を踏まえ、彼らはやむなく、これまでと真逆の方針、即ち、「積極的接種勧奨の再開」という苦渋の決断に至ったようです。このことは、2005年5月の厚労省の決定、即ち、「積極的勧奨の一時中止」は完全に誤っていたと認めているのも同然なのです。

 

しかし、彼らは、自分たちが間違っていたとは決して認めません。従って、余り声を大にしてワクチンを打ちなさいとも言えず、2011年現在、全国の小学校に対して、各自治体の教育委員会を通じて、日本脳炎ワクチンを積極的に接種させるよう指導している有様です。

 

また、2011年3月のヒブワクチンと肺炎球菌を巡る「誤報道」の際(別項で述べます)には、あれほど、「ワクチンの副作用(副反応の間違い)」と称して、大騒ぎした日本のマスコミ(日本では最有力な3大新聞(朝日、読売、毎日)が率先して誤報道を展開しました。これらの1連の動きは、いずれも欧米からは低レベルかつ非科学的な態度と見なされています。「ワクチンの副作用」等という、「太陽が西から昇る」と主張するがごとき、非科学的誤表現を駆使して、公共に垂れ流しても厚顔無恥でいられるのですから、当然かもしれませんが)も、これらの日本脳炎を巡る一連の動きに対しては、2008年以降、奇異なことに、完全な沈黙を守り続けており、一言半句の記事や言及すらも、一切見受けられません。

少なくとも、国内で新たな日本脳炎患者が発生したと言う重大事実こそを、大々的に報道してしかるべきではないでしょうか?

 

それとも、報道したくても出来ない事情が存在した(する)とか、あるいは、敢えて報道すべきでないと何者かが判断した(し続けている)とでも言うのでしょうか。

 

日本のワクチンを取り巻く状況は、欧米に比べ20年以上遅れています。

 

日本脳炎を含め、有効な治療法が存在しない疾患は、ワクチンで予防する以外に手段がありません(麻疹、風疹、破傷風、ポリオなど、これらをVaccine Preventable Disease (VPD)と称します)。

当院は開院当時から、一貫して、日本脳炎を含めたVPDに対するワクチン接種を積極的に勧奨しています。

 

余談ですが、私にも小学生の息子がいますが、3歳になると同時に(当時、厚労省の「間違った決定」時代、即ち、「暗黒時代」でした)、私が全て旧型ワクチンで接種を執り行い、親としての責務を果たすことが出来て安堵しました。当然何の副反応も起きていません。また、息子だけでなく、私の考えに賛同して頂いた多くの親御さんの子供達(計50〜100名程になります)に対しても、2006年から2009年にかけて、旧型ワクチン接種を行い、医師としての果たすべき責務を全うしたと自負しています。

当然、この子供達にも何の副反応も起きていません。