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京都市北区西賀茂榿ノ木町31−2
院長 諸岡 憲(もろおか けん)
  1. 薬理学と錬金術師
 

薬理学と錬金術師

薬理学は、基礎医学の総合的学問であると同時に、臨床医学の正当性を検証するのに不可欠な学問と言えます。
即ち、薬理学とは、一言で表せば、薬が人体のどこに作用して、どの様に効力を発揮するかを研究する学問だからです。

 

例えば、「この薬はこの症状に効くから」と言う観点だけで、一般臨床医は、薬を使用しがちです。
しかし、これでは、科学以前の経験論のみに依存した欧州中世の錬金術師の非科学的方法論と、何ら変わるところがありません。

 

具体例として言い換えますと、「咳が出ているから、咳止めの薬(アスベリン、メジコン等」を処方する」 
これは、必ずしも正解ではありません。

 

私の場合、「咳が出ている」→「気管支そのものへの微生物侵襲による炎症によるものか(病理学・生理学・微生物学)、
あるいは、何等かのアレルゲンによって引き起こされたものか(アレルギー学・分子生物学・生化学)、その原因を診察(問診・視診・聴診・検査等)により特定する」→「特定した原因を除去するために最適な薬剤を選択する(薬理学)」という、フローチャート的診療を常に心がけています。

こうすることが、最も有効かつ安全な診療につながるのです。

 

では、何故、「咳に対して咳止め薬の処方をする」ことが間違いなのでしょうか?

 

咳とは、その殆どが、いわば、生理現象の一種であり、生体に侵入した微生物、あるいは、アレルゲンと呼ばれる物質(異物)を排除しようとする反射なのです(これ以外にも、勿論、気管支そのものの病変に起因する場合、即ち、悪性新生物(腫瘍)や外傷が原因となる場合もありますが、これらの場合の咳も広義では反射です)。

従って、眼前の患者が「咳が出る」と訴えた場合、単純にウィルスの気管支およびその周囲組織への侵入によって引き起こされたもの(いわゆる「かぜ症候群」)であれば、咳止め薬の処方は間違っているとは言えません。

 

しかし、もし、その患者が気管支喘息を有していて、アレルゲンや微生物を排除するための咳であったら、咳止め薬の処方は悲劇的な結果を招来する危険性があるのです。

咳止め薬は、その殆どが、延髄と呼ばれる脳の一部に存在する咳中枢に直接作用して、その神経細胞の興奮性を抑制することを介して、咳を鎮静化すると言う薬理学的機序を有しています(一部、反射に依存せず、気管支そのものに作用する咳止め薬もありますが)。


従って、アレルゲンを排除するために生じている、いわば、「生理的反射」の咳を、無理矢理、神経細胞の興奮性を抑制して止めてしまったら、アレルゲンが排除できなくなり、最悪の場合、窒息死に至るのです。

 

この様な機序を明らかにするのが薬理学なのです。

 

この場合の正解は、まず、病原体由来の咳の場合、病原体を弱体化、あるいは、除去するのに最適な薬剤(抗生剤等)を選択し、次いで、気管支拡張剤(メプチン、ホクナリン等)の処方を中心にし、喀痰排出促進剤(ムコダイン等)、や、第二世代抗ヒスタミン剤(ゼスラン等)、あるいは、気管支喘息の症状が強い場合は、それらに対する薬(アイピーディ、オノン等:気管支喘息、アレルギーに関しては別項で詳細に述べます)を、組み合わせて処方するのが、最も薬理学的整合性を満たした処方なのです。

 

もう一つ、具体的な薬の事例について、挙げてみましょう。
鼻水が出ていることに対して、その症状を緩和するための処方として、昔から抗ヒスタミン薬を用いてきました。


しかし、薬理学や分子生物学が発展してきたおかげで、この抗ヒスタミン薬の古い世代(第一世代)、特に、シプロヘプタジン塩酸塩水和物(商品名ペリアクチン)には、本来の抗ヒスタミン作用(鼻汁分泌抑制)の他に、抗ムスカリン作用を強く有していることが明らかとなりました。
ムスカリン受容体は全身のあらゆる臓器・組織に存在する、自律神経伝達物質の受容体であり、神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)に反応して生理機能を体現します。

 

即ち、ペリアクチンは鼻汁抑制効果だけでなく、その強い抗ムスカリン作用のため、眠気は勿論、全身的自律神経(主として副交感神経)に対する抑制効果をもたらすのです。
その中で、最も問題となるのが、気管支分泌物抑制作用です。これを具体的に言い換えますと、気管支内の分泌物、即ち、痰を粘稠化して固まらせる作用のことであり、気管支喘息発作による鼻汁・痰の場合、ペリアクチンは、最悪気管支内壁に痰を固着させて排出困難の状態を惹起し、窒息をもたらす危険性があるのです。

 

従って、気管支喘息を有している児にペリアクチンを処方するのは、大変危険であり、10年ほど前から、日本アレルギー学会等では、「喘息患者に対してペリアクチンの使用を禁忌とする」と警告しているのです。

 

しかし、この警告を全く無視するかのごとき処方が、未だに、日本国内で、特に、この京都で平然とまかり通っています(何も問題が起こっていないのが不思議なくらいです)。

医師から「風邪」の安直な診断を受け、「アスベリン、ペリアクチン等」という愚かな処方を受けた場合、直ちに、その薬は飲まずに破棄して当院を受診して下さい


私は、以上の様に、完全に最新総合医学的見地に立脚した医療を行うよう、常に情報を更新しながら前進し、日々研鑽をし続けています。